Lesson7



前世の記憶というものは見えたが、名前や顔などはモヤがかかっており正直分からなかった。
夢でも見ていたような体験にナマエは未だにふわふわとした足取り。

「前世の私には、愛していた人が居たんだなぁ・・・羨ましい・・・」

ナマエはため息をつきながら角を曲がろうとすると

「おっと」
「わっ」

曲がった所にリヴァイが居たらしく、驚いて仰け反ったナマエの腕を咄嗟に掴んだ。

「すまん」
「わ、私こそすみません!ぼーっとしてて」

慌てて頭を下げるナマエに、リヴァイは眉を寄せると

「おいお前、どこに居やがった」
「えっ、部室に居ました」
「部室? お前何かの顧問か?」
「はい。オカルト部の・・・」
「ああ、あれか」

そう言うとリヴァイはハァ・・・と大きくため息をつくとゴム手袋を外して手を伸ばしてきた。

その手はナマエの頭のホコリを摘み持っていたチリトリの中に捨てると手を拭い、目元に優しく触れてくる。

「泣いてたのか?」
「へっ!?」
「目が赤い」

リヴァイは心配そうに覗き込む。
顔の近さに驚いたナマエは全力で首を振ると

「あ、あはは!怖い話聞いちゃって!もーミカサってば、怖い話するの上手なんですよ」
「・・・そうか」
「ありがとうございます。リヴァイさん」

ナマエはにこっと笑うと失礼します、と頭を下げてその場を去ろうとすると、今度は手を握られた。

「っ!?」
「ナマエ先生・・・今度の休み、時間あるか?」

夕日に沈む廊下・・・夕日のせいなのか、リヴァイの顔が赤く見える。突然の誘いに固まっていたが、ナマエは反射的にこくこくと頷いてしまった。

「これ、連絡先だ」

胸ポケットから渡された小さなメモを握らされ、リヴァイは背中を向けると足早にその場を去っていった。

残されたナマエ。ドクドクと心臓が大きく鳴り、口から飛び出しそうで、握っている紙切れも手汗で湿ってしまいそうだった。



***



アパートメントに帰るとソファーに鞄を置いてベッドにダイブすると、ポケットに入れられたリヴァイの連絡先を登録した。

連絡アプリとも同期された瞬間、ピコン!と音を鳴り心臓が強く跳ね他と同時にビクッと肩が揺れる。

>リヴァイだ

シンプルな自己紹介にナマエはクスッとと笑うと

>ナマエです

同じように返事をする。
すぐに既読がついてしばらくすると

>土曜日、10時でいいか?

>大丈夫です。

>了解した。迎えに行くから待っててくれ

>分かりました!よろしくお願いします!



これはデートのお誘いだろうか・・・ナマエは携帯を抱きしめてベッドの上でゴロゴロ転がる。
男性とデートなど、久しぶりすぎて浮ついてしまう。

ナマエは慌ててベッドから起き上がりクローゼットの服を引っ張り出せば、1人ファッションショーが始まった。




***




待ちに待った土曜日となり、ナマエは鏡の前で前髪を整える。

「変じゃないかなぁ・・・」

季節は11月下旬、段々と冷えてきたのもありセーターとタイトスカートにしたのだが・・・アパートメントのエントランスにある全身鏡で両手を広げると

「張り切りすぎるのも・・・やっぱズボンの方が・・・」
「なにしてんの?」
「うわぁ!メアリーさん!?」

振り向くとそこには同じアパートメントの住人であるメアリーが立っていた。

メアリーは腰に手を当てるとニヤッと笑い

「なに、デート?」
「デートに近いです・・・あの、変じゃないですか?」
「大丈夫よ、可愛い可愛い」

頑張りなさいよ、とナマエの頭をポンポンと撫でるとアパートメントから出ていった。

しばらくすると、ピコン!と着信音か鳴り慌ててショルダーから携帯を取り出すと「着いた」というリヴァイからの連絡だったので、ナマエは腹を括ると深呼吸してアパートメントを飛び出した。





アパートメントの前には黒のスポーツカーが止まっており、リヴァイが立っていた。

「遅くなった」
「いえ!お迎えありがとうございます」

頭を下げるとリヴァイは助手席のドアを開けてナマエを乗せる。

「頭ぶつけるなよ」
「(ぐっ・・・紳士・・・素敵・・・!)」

普段の作業着ではなく清潔感溢れる白いパンツにトップスは黒のハイネックセーター。上に羽織るオリーブ色のロングコート。私服になるとまた一段とかっこよく見えるリヴァイを意識してしまい辺りをキョロキョロと見渡すがスポーツカーのお陰で車内の空間は狭く、リヴァイとの距離も普通の車より近いのため緊張で喉が乾いてしまいそうだ。

リヴァイも運転席に座りシートベルトを締めると

「生徒達に出くわすかもしれんからな、マリア区まで走る」
「はい!」

イグニッションスイッチを押すとエンジンがかかり、車はあっという間にアパートメントを後にした。






無言の空間、あまり話しかけすぎても運転に集中出来ないだろうとナマエはソワソワしてしまう。隣をチラッと見れば、もちろんリヴァイの横顔で・・・もちろん運転をしている。

普段はマスクで顔が覆われ、ゴム手袋で見れない手は意外と武骨で、手の甲を走る血管などを観察してしまったり、その血管を辿って行くとリヴァイ横顔がある。

横顔も綺麗なためナマエは思わず見とれていると

「どうした、クソでも出そうか?」
「いえ!快便で・・・ぐっ!」
「はっ!」

正直に答えてしまったナマエに、リヴァイは前を向きながら笑う。

ナマエは思わず窓を開けて「かっこよすぎるだろーーー!!」と叫びたくなったがグッと堪える。とりあえず心の中で叫んでおくと、ナマエは話題を探した。

「リヴァイさんって車お好きなんですか?」
「まあ、好きな方だな。 これ日本車だぞ」
「え? あ、ほんとだ!」

ハンドルには見慣れた車メーカーのロゴがあしらわれており思わず近づいてしまったため慌てて離れる。

「そういえば、右ハンドルでしたね」
「ああ。こっちは左が主流だからな」
「速いのが良いんですか?」
「特にこだわりはないな。昔は4シートだったが、正直後部座席は使わないってのに気づいてからこっちにした。・・・一応後ろにも座席はあるが、人が座るもんではないな」

振り向けば確かにオマケ程度の小さな後部座席・・・ナマエはおお、と声が出た。

「ナマエ先生くらいの背丈なら大丈夫かもしれんが、前にハンジを乗せた時狭い狭いって大ブーイングだった」
「ハンジ先生も乗られたんですね」

ハンジとリヴァイは仲良しだ。分かってはいるが少しもやっとしてしまい、リヴァイはナマエをチラッと見ると

「誤解するなよ、エルヴィンも一緒だ。アイツら2人で飲み会して酔っ払いすぎて帰れなくなったから、俺が仕方なく迎えに行っただけだ。あの時は酒臭くてたまらなかった」
「ふふ、ハンジ先生とエルヴィン先生お酒強い方なのに」

ナマエは笑うとリヴァイの目付きが変わった。

「・・・アイツらと飲んだのか?」
「はい、ここに来たばかりの頃に歓迎会として。他にも体育のミケ先生と音楽のナナバ先生も」
「ほう・・・ミケの野郎に何かされなかったか?」
「へ? あぁ、匂いを嗅がれました」

そう言うとナマエは臭うんですかね・・・と心配そうな顔になると

「あれはアイツの癖・・・いや性癖か。どんな反応だった」
「えーっと・・・“抱いていいか”って聞かれました」
「あぁ?!(お前既婚者だろうが!)」

思わず声を荒らげてしまったリヴァイにナマエは驚くと

「ど、どうしました!?」
「おい、何もされてねぇか?」
「何も・・・挨拶のハグして終わりましたけど・・・ナナバさんにボコボコにされてました。」
「そう、か」

その抱くでは無いと思うのだが・・・天然で良かったとリヴァイは安堵の息を吐いた。



***



かつて、このパラディ島には三重の壁が築かれていたらしい。その壁跡は世界遺産にも登録されておりパラディ島に来てまだ日が浅いナマエを連れてこようと思ったのだ。

「パラディ島ってリゾート地だったり世界遺産の宝庫ですものね! 行ってみたかったんです!」
「ああ、そりゃ良かっ」
「わ〜!!これが壁かぁ〜教科書で見た通りだ!しかも触れるんです?!すごーい!!」

ナマエは目をキラキラさせて壁をペタペタと触ったり壁の柄をスマホのカメラに写していく。

突然ハンジのように大はしゃぎするナマエには驚いたが、微笑ましくなりやれやれとリヴァイは腕を組むと

「はぐれるなよ。 あと、足元注意だ」
「はい!あの、リヴァイさんっ!壁の上も行けるんです?!」

指を指した先にはリフトで、50mの壁上まで登れるようになっている。

「みたいだな・・・行くか?」
「はい!」

鼻息を荒く、頬を真っ赤にさせたナマエを見てリヴァイは口元が緩みそうになるが、リフトへと向かった。

「すごい!壁の上から飛び降りれるバンジーもやってます!」
「今日はお前スカートだろ。やめておけ」
「凄いです、巨人になった少年の歯ですって!」
「引っこ抜いた奴がいるのか、恐ろしい奴もいるもんだな」
「リヴァイさんっ!当時の指名手配書です!」
「なんだこりゃ、ブッサイクな奴だな」

コロコロ変わるナマエの表情は見ていて飽きない。 あっという間に中心地の世界遺産を周り尽くした頃には少し空の色が橙色に変わってきた頃だった。

早めの夕食を済ませ、トロスト地区にまで戻ってきたリヴァイとナマエ。チラッとリヴァイは海を見ると

「港に行ってみるか?」
「はい!」

車線変更をして港の入口に行くと、駐車場に車を停めた。

「冷えるから羽織れ」
「ありがとうございます」

後部座席から厚手のコートを取り出すと肩に掛けてくれる。そんな気遣いにナマエの顔はもう何度目だろうか、顔が赤くなってしまう。

静かな港をゆっくりと歩いているとナマエは海を眺めながら

「リヴァイさんって、前世とか信じます?」
「前世・・・?よく分からんな」

そう言えば遥か前にハンジが何か言っていた気がする。なにか吹き込まれたのだろうか、とナマエの話に耳を傾けた。

「先日、自分の前世を見る機会があったんですけど・・・私の前世も教師だったみたいです」
「ほぉ」
「その生徒さんと恋人関係になったみたいです」
「ガキに手ェ出したのか」

大胆だな、とリヴァイは驚くとナマエは慌てて首を振ると

「知り合いの紹介だったみたいで、相手は少し年上の方でした。その生徒さんと恋人関係になって・・・まあ色々、戦争みたいなのが起きてですね。雨の日も風の日も、雪の降る寒い日も何年かかっても恋人の帰りを待っていたそうなんですけど、残念ながら恋人は亡くなってしまったみたいです」

ぽつりぽつりと話すナマエの横顔を眺めながらリヴァイは

「それは、辛かっただろうな」
「はい。最後は恋人が亡くなったショックによる衰弱死でした。」
「そうか・・・」
「天国で会えてたら良いんですけど。」

そう言って悲しそうに笑うナマエ。
リヴァイは思わずナマエの頬に触れれば11月の気温による海風によって冷えてしまっていた。

「・・・冷たいな。もう戻るぞ」
「はい。リヴァイさん、今日楽しかった。ありがとうございます」

そう微笑むナマエを見たリヴァイはそのまま添えていた手を後頭部に回すと、引き寄せてキスをしてしまった。

突然の事にナマエは驚いたがリヴァイのジャケットを握ると、そのままゆっくりと目閉じた。






帰りはお互い無言だったが、降りる間際もリヴァイはナマエに軽くキスをするとナマエは恥ずかしそうに俯く。

そんな恥じらうナマエの姿にリヴァイは軽く抱きしめると耳元で

「おやすみ」

そう低く囁くとナマエもこくりと頷き、小さな声で「おやすみなさい」と呟くとお互い名残惜しそうに身体を離す。

「また、月曜日」
「ああ・・・また月曜日」

リヴァイは軽く手を上げると車に乗り込んで、アパートメントを去っていった。




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